今朝から僕は!

 大学入学式を明日に控え僕は屹立としていた。入学式に緊張していたのではない。今日は僕の代名詞ともいうべき天パに別れを告げる日、ひいてはイケてない自分に決別する日なのだ。僕は今日、髪を切りに行きます。

 大学デビューがかかっている為、失敗は許されない。店の選別には数日を要した。僕の住んでいる町は寺と床屋が異常に多い。どちらも100m四方に必ず2、3はあるくらいだ。選択肢の多さは無用な迷いを生む。店の外観、近隣住民の意見等を元にそれを数件へと絞る。さらにその中から自分の身の丈に適したものを取捨していく。最初に目を付けた店は理髪店というよりは完全に美容院であった。あまりにもお洒落すぎて店の前に長時間立つ事すら憚られた。個人的な分類になるが、理髪店はお洒落さの順で美容院、理髪店、床屋と区分している。近所に最も多いのが床屋であり多くは個人経営でおっちゃんや年寄りがやっている。此処へ行くとまず間違いなく坊主か角刈りだろう。悲惨な末路を回避すべく僕は床屋よりセンスがあるが美容院のような入りづらさのない「お洒落な床屋さん」位を目指して一つの理髪店を選んだ。

 そして今日。いよいよ店の前に立つ。だが僕は店内にて動揺を隠し切れていなかった。お洒落すぎる…。店の規模は小さなものだがネットで見た外観等よりも垢抜けた内装であった。流れるように僕は洗髪台へ連れ去られる。まずい…このままでは先日のように言われるがままに金を払わされる!きっと頼んでもないのにパーマだの染色だのされるに違いない。僕は頭をジャブジャブされながら「今日はカットだけでお願いします。」と「だけ」にイントネーションを置いて言った。店員は僕の髪の癖の強いのを気にかけていた様子だったが了承してくれた。

 やはりこのくせ毛をカットだけでどうにかするのは不可能なようだ。「このパーマを生かす形でやってみますね。」と言ってくれたが殺せるものならそうして欲しい。結局短く整える事で何とか形にしてくれた。鏡を見せられた僕の所感は…「坊主頭アフター1カ月」。うーん、ワックスとかいろいろ付けてくれたみたいだけど、正直どこに付いているのかも分からない。だが、僕は案外と満足していた。と、言うのもここ数カ月、雨が近づくと一斉にチヂれ出す人間湿度計と化していた髪が煩わしくて仕方なかったからだ。髭も綺麗に剃って貰えたし眉の形もシュっとした感じに整えてくれた。そして何よりあの熱いタオルを顔の上に置くのは非常に気持ちがよかった。値段も存外にリーズナブル。今非常にさっぱりした気分だ。

 結局僕は「イケてない自分」を卒業出来たかは分からないが、この爽快な気分で明日からの新生活をスタートできる事を嬉しく思う。そして今回一切下ネタを挟んでいない事に気がついたが、何だか些細なことに思えてどうでもよくなったので爽やかなままでこの記事の結びとさせて頂く。